Works: 竹内謙「『JanJan』の"目"が社会を変える」
取材の折に手渡された細長いパンフレットの表紙には、こんなコピーが印刷されていた。「市民の、市民による、市民のためのメディア」。シンプルなことこの上ないが、「JanJan」のコンセプトを言い表わすのに、これ以上ふさわしい言葉は他にないだろう。
2003年2月1日に創刊されたインターネット新聞「JanJan」には、従来の新聞にはない大きな特徴がある。それは、記事を書いているのが、「市民記者」として登録された普通の一般市民だという点だ。市民記者コードを守りさえすれば、どんな人でも市民記者になることができる。市民記者から寄せられた原稿は、編集部のスタッフが記者と相談しながら文面などを微調整する。投稿された記事は基本的にすべて採用されており、毎日十数本(日曜のみ数本)の記事が署名入りで掲載されている。
この「JanJan」を立ち上げた竹内謙さんは、朝日新聞社で環境問題の専門記者として辣腕をふるった後、1993年に鎌倉市の市長に当選。2期8年間の市長時代には、市政記者クラブ制度の廃止に取り組んだことでも知られている人だ。
その竹内さんが、このようなスタイルのインターネット新聞を始めようと思ったきっかけは何だったのだろうか?
「私がまだ鎌倉市の市長をしていた2001年の夏、韓国のソウルにある『OhmyNews』というインターネット新聞の編集部を訪問する機会があったんです。『OhmyNews』も市民記者が書いた記事を載せるというスタイルの新聞ですが、2000年の2月に創刊して以来、今では記者が2万人、読者数は250万人という一大メディアに成長しています。私はその訪問の時に大変感動して、これこそ21世紀のメディアだと強く印象づけられました。私も長い間マスコミの世界にいて、その現状についてずっと考え続けてきましたから、こういうスタイルの新聞は、これからやらなきゃいけない新しい形のメディアだと思ったんです」
「そこで私は、市民記者によるインターネット新聞はすごい、ぜひやってみるべきだ、といろんな人に薦めてみたんですが、結局誰も乗ってきませんでした。なぜかというと、今インターネットでこういうメディアをやろうとすると、経営的に難しいからなんですね。それなら私が自分でやろうと思い立って、あちこちに話をしてみたところ、幸いにもお金を出資してくれる同志が現れました。それで『JanJan』を創刊したというわけです」
竹内さんが考える、一般の新聞と「JanJan」との違いは何なのだろうか?
「今、マスコミの状況はだんだんひどくなってきています。みんな会社に雇われている記者だから、会社の枠の中でやっているわけです。彼らは圧力に屈しないとか大義名分を言ってはいるけど、実は非常に弱いんですよ、広告主とかに対して。そうして自ら筆を弱めてしまって、本来見るべき世界を見ないで通り過ぎてしまっている。今の新聞には、本当に大事なことは書かれていないんです。だから、できればそういうマスコミが書かない、書けないことを『JanJan』では発信していきたい。そうすれば、新しい市民メディアとしての存在価値が出ると思うんです」
これまでに投稿された記事の中で、特に竹内さんの印象に残っているのは?
「いろんなタイプの記事があるんですが、普通の新聞が書かないような記事、特に暮らしの視点から見た記事はいいですね。久保真弓さんという方が書いた『それでも、きれいなお姉さんがいいですか』という記事は面白かった。銀行の支店が合併に伴う統廃合でしょっちゅう変わるものだから、本店に預金口座に移すことにしたそうなんですが、その手続きが実に煩わしい。しかも、窓口にいる若い女性たちは派遣社員らしくて、何をどうすればいいのか全然よくわかっていない。案内係のおばさんの方が詳しいくらいなんです。久保さんはそのやりとりの一部始終を書かれているんですが、これはまさに暮らしそのものですよね。こういうことって、プロの記者は気付かないんですよ」
今の段階では、「JanJan」の運営はまだビジネスモデルとして成立してはいない。将来的には広告による収益形態を考えているそうだが、竹内さんはそれを性急に押し進めるつもりはないようだ。
「創刊から3年以内には、ビジネスモデルを確立したいとは思っています。ただ、あまり早いうちから広告収入を得ることに力を入れてしまうと、質に影響します。我々は質の高いオルタナティブ・メディアを目指していますので、あまりガツガツと収入のことは追求しないようにしているんです。今はとにかく、ある一定のレベルに達しているものを作りたいと考えています」
では竹内さんは、「JanJan」をどのような形に育てていきたいと考えているのだろうか?
「いかにたくさんの市民を巻き込んでいくことができるかという点が、『JanJan』の最終的な決め手になると思います。現在、『JanJan』の市民記者の数は約1200人程度ですが、これが1万人くらいになれば、大きな新聞社の抱えている記者の3倍くらいになりますし、それだけ『目』が広がるわけです。新聞は、国家権力でも経済界でも追ってくれればいい。我々は暮らしや地域の視点からものを見ていきますから」
「我々が試みているのは、市民の目から見たニュースを伝えていくこと。そうして一人一人が地域から発信していかないと、おまかせ民主主義のこの社会は強くならないと思うんです。そしてそれを可能にするのが、インターネットというメディアの強味なのではないかと思います」
(「Web Designing」2004年4月号)

