Works: 粟飯原理咲「等身大のまなざしで」

おっとりした物腰と、コロコロとよく通る笑い声。取材でお会いした粟飯原理咲さんは、数多くの女性向けサイトを成功させている辣腕プロデューサーというイメージとは違って、とても穏やかな印象の人だった。

「私、NTTに就職するまで、パソコンにほとんど触れたことがなかったんです。職場のMacの起動画面に『Mac OS』と表示されるのを見て、『マックオス』って何だろう? と思っていたくらいで(笑)」

学生時代にケーブルテレビの番組制作アルバイトをしていた粟飯原さんは、その企画力を買われ、NTTでEコマース事業のマーケティング業務を担当。だが当時から、従来のEコマースサイトのユーザーへのアプローチに、一消費者として疑問を感じていたという。

「それまでEコマースサイトには、等身大の生活者の視点、特に女性の視点が欠けているんじゃないかと思っていたんです。それで、そういった女性の視点からオンラインショッピングについて語り合うためのメーリングリスト『LIFE』を非営利で立ち上げました。それから、そこで得られた意見を仕事にフィードバックしたり、書籍の形にまとめたりするようになったんですよ」

そんな粟飯原さんにとってもう一つの大きな転機となったのは、1999年に立ち上げたサイト&メールマガジン『OL美食特捜隊』の成功だった。

「当時、食べ歩きが好きな同僚の女性が私を含めて5人いたんですが、自分たちが自腹で食べ歩いて本当に美味しいと思ったお店の情報を発信したら面白いんじゃないか、という話になったんです。それで、一人3千円ずつ出し合ってサイトを作って(笑)、メールマガジンを発行したら、あっという間にクチコミで広まって、首都圏で3万人のユーザーが集まったんですよ。びっくりしましたね」

その後、NTTからリクルートに移籍した粟飯原さんは、「オールアバウト」のマーケティング&コンテンツプランニングに携わる一方で、ネット上で簡単に寄せ書きが作成できる「よせがきコム」や、ナビゲーターが私的本棚を公開しておすすめの書籍を紹介する「くちコミ読書カフェ『Hon-Cafe』」など、若い女性の等身大の視点に立ったサービスサイトを次々に企画。独立して会社を設立した2003年には、おすすめのお取り寄せ食材のクチコミ情報サイト「おとりよせネット」を立ち上げた。そのアイデアの多彩さには驚くばかりだ。

「どのサイトのアイデアも、私の中では全部繋がっているんです。一人の人間が生きている間に思いつくアイデアにはいろんなものがあると思うんですが、大事なのは、そのアイデアを実現するのに適した場所----自分では『適想(創)適所』と呼んでいるんですが----を選ぶことだと思います。たとえば、『OL美食特捜隊』のような企画を、個人ではなくてどこかの企業がやったら、面白くはならないと思うんですよ。アイデアは、収まる場所があってこそ初めて生きてくるものです。独立したのは、そういう場所の選択肢を広げるためでもあるんです」

サイトのアイデアを考えるのに、何かコツのようなものはあるのだろうか?

「普段の生活で気をつけているのは、たくさんの人と話すということ。できれば、昔からの友達と話すようにしています。今の時代ってみんなこんな風に思ってるよね、ということが、友達と話すとすごくよくわかるんです。あとは意識の持ち方として、どんなことでも自分とは関係ないとは思わないこと。人間って、自分の範疇外と思うと、とたんにアイデアが出てこなくなるんです。意識の幅をちょっと広げるだけで、ずいぶん違うと思います」

では、実際にサイトを制作したり運営したりする上で、何か気をつけていることは?

「まず、自分がユーザーになりきって、そのサイトを使っている場面を徹底的に想像するようにしています。女性は実用性に加えてデザインにも敏感なので、サイトの質感や雰囲気作りは大切です。運営に関しては、そのサイトの更新にかけられる時間はどのくらいかということを設計時から念頭に置いて、その範囲内で運営できるシステムにしているんです」

サイトに寄せられるユーザーの意見に対しても、粟飯原さんには独特の考え方がある。

「サイトをうまく運営するコツは、ユーザーからのネガティブな意見をいかに集めるかだと思います。実は『おとりよせネット』も、オープン直後にユーザーからご意見を頂いて、それを参考に、すぐに2日徹夜して大リニューアルをしたことがあるんです。ほめていただくのはもちろん嬉しいんですが、ネガティブな意見もそれと同じくらい重要ですね」

2005年もまた新しいサイトを立ち上げるプランがあるという粟飯原さん。そういったサイトを次々に作り出していく醍醐味は、どこにあるのだろうか?

「みんなで一つのサイトを作り上げて、だんだん愛着が湧いて、サイトが生き物のようになっていくのがすごく楽しいんです。それでユーザーの方からいろんな反応や感想をいただけると『キャー!』って感じになりますし(笑)。一人ひとりが自分のとっておきの情報を持ち寄って、千人集まれば、千人のとっておきデータベースができるじゃないですか。そういう『みんなのとっておきデータベース』を作りたいと、いつも思っているんです」

いつかは「Hon-Cafe」で紹介した本が置いてある現実世界のカフェで、「おとりよせネット」のスイーツを出してみたい、と笑う粟飯原さん。等身大の夢は、まだまだ広がっていくようだ。

(「Web Designing」2005年2月号)

About Me

  • Author : yama_taka
  • フリーランスの編集/ライター/フォトグラファー。旅と写真と自転車をこよなく愛する、生まれながらの根無し草。
  • Read more »

Works

  • これまでに執筆を手がけた書籍や雑誌に寄稿した主な記事など。
  • Read more »

Portfolio

  • ラダックなどへの旅の中で撮影した写真のポートフォリオ。
  • Read more »

Bicycle

  • 我が愛車、ブロンプトンM3L RAW シマノインター8改を紹介。
  • Read more »

Snap

  • 潮州

  • 馬さん特製・海老のマヨネーズ和え。超うまかった。
  • (June 14, 2010 3:56 PM)
  • Read more »

Monthly Archives