昔、まだカメラの扱いもおぼつかなかった頃、ある人にこんなアドバイスをされたことがある。
「写真を撮る時、ファインダーを覗いていて『これだ!』と思ったら、そこから、一歩、二歩、三歩、前に踏み込むようにしなさい。そうすると、もっといい写真になるから」
このアドバイスは的を射ていて、特に、28mmや35mmの広角レンズを扱う時にすごく役に立った。至近距離でポートレートを撮る時も、「これだ!」と思った構図から、じりっ、と少しだけ近寄るようにしている。自分の写真の撮り方にスタイルのようなものがあるとしたら、こういうことなのかもしれない。
「これだ!」と思った場所から、一歩、二歩、三歩、前に踏み込む。
それは写真だけに限らず、自分がこれから書こうとしている文章にも通じることだと思う。
「ラダックの風息」を書いた時、僕は自分の持てる力のすべてを出し尽くした。あの本は、あの時点で自分が書くことのできたベストの本だと思う。だけど、今、ラダックについて書くとしたら‥‥? 今の自分なら、三年前の自分よりも、一歩、二歩、三歩、前に踏み込めるのでは?
たとえば、もっと自分自身の素直な気持を、言葉に委ねること。もっとたくさん相手と話をして、少しでも深く相手の気持を知ろうと努力すること。何がわかっていなかったのか、何ができていなかったのか、一つひとつ確認していくこと――。
「ラダックの風息」を無理に越えようとするのではなく、自分なりにもう少しだけ前に踏み込んでみる。その上で、自分に何が書けるのか、何が伝えられるのかを確かめる。今度の旅は、たぶん、そういうものになるのではないかと思う。


ラダックの風息、枕元から手を伸ばせば届く本棚に並べています。今でも寝付けない時などにパラパラとめくることが多いです。(急かすつもりはありませんけど)また yama_taka さんが旅の本を出すのは楽しみだなあ。
>マサミチさん
コメントありがとうございます。あの本をそんな風に読んでいただいているというのは、本当にうれしいです。自分としても、旅について書くというのが一番自分の気持に素直に触れることができる作業なので、それを地道に追求していければと思っています。